永見

別れの3月が過ぎて今年も僕は何夜かを送別会に費やした。ビールはいつだって美味しいけれど、このお酒はどうも慣れない。
夜、最寄り駅近くでおじさんとすれ違う。地味な背広きっちりとした七三分けのこの姿にこの人の人生を思う。送別会帰りだろうか、顔はずいぶん赤くて手にはキレイな花束がしっかり握られている。
おじさんはずっとサヨナラの手を振って歩いていた。つい何分か前に職場の仲間と最後の手を振って別れたんだろう。1人きりで千鳥足、サヨナラの手を振り続け笑顔で涙目、歩くいつもより遅めの家路。
帰ったら奥さんが待っている、息子は遠くにいて、娘はもう嫁いでいったなんて考えながら僕も家路を歩く。
3月は。あぁ3月は。